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【報告UP】「林業と災害」オンラインフォーラムが開催されました。
オンラインフォーラム「災害と林業〜土石流災害と林業の関係性の調査報告」が9月15日、Youtubeにて配信され、(9月28日現在)2,400回以上の視聴がありました。
フォーラムの冒頭に、メディアの調査を行った結果を紹介しました。
それは、2019年の東日本台風と2020年の球磨川豪雨災害で、その原因が「想定外の豪雨」「記録的な大雨」とされる一方で、「林業」と「災害」が結び付けられた記事がほぼ見当たらなかったというものです。地元に住んでいる人たちはまさか林業施業が土石流と関わりがあるとは思わない状況であることに触れました。
「統計に出ていない崩壊がある」という問題提起とともに、フォーラムの内容(報告と有識者発表)を紹介してスタートしました。
中嶋健造「崩壊地の9割以上が林業施業から起因した崩壊」
最初に発表したのは、NPO法人自伐型林業推進協会の中嶋健造代表理事。タイトルは「土砂災害拡大の原因は『豪雨』だけに非ず」でした。
「崩壊は「記録的な豪雨」が原因だとされていますが、実際はどうでしょう」と中嶋代表が問題提起すると、熱海は盛り土や開発があったことに触れ、「崩壊は林業施業が関係しているということがわかります」と言いました。
土砂災害が発生する要因は、3つあります。「雨」と「土地」「開発・森林伐採」の3要件で、それぞれスライドで紹介しました。
そして中嶋さんは、2011年の紀伊半島豪雨の現場視察を振り返りました。当時は深層崩壊か表層崩壊かという土地原因についてメディアで取り上げられていましたが、中嶋さんが見たのは、「林業が土砂災害を誘発しているのではないかという現場」だったと言いました。大崩壊している地点のすぐそばでは、まったく崩壊していない現場があり、違和感を覚えました。
「作業道をキッチリつけるかによって災害の変化があるのではないかと思い、調査を始めました」(中嶋)。
今回のフォーラムは、皆伐地(作業道を含む)からの土砂崩壊を特に取り上げました。中嶋さんからは、皆伐状態について「人工林及び広葉樹林でほぼ全部伐採された山林、また再造林後15年以下の山林も含む」と定義し、「根っこが生えて地面につくのが最低10年、長くて20年かかるため、15年と設定して「皆伐」としました」と説明しました。その現場でどこまで崩壊が進んでいるのか。皆伐が増えた現状につていも、歴史的に振り返りました。
土砂崩れが多く起こった地域では川の河床が上がり、堤防の機能が失われ、地域の災害リスクが増していると警鐘を鳴らしました。そして、今回の調査で崩壊の種類を色分けし、崩壊した地点が林業施業地であることをスライドで紹介。
「一般的には放置林が崩れる、整備したところが崩れないと言われていますが、まったくそうではないことがよくわかります」(中嶋)。
主に調査した宮城県丸森町と熊本県球磨村の衛星写真の崩壊地点を示し、「崩壊地の9割以上が林業施業起因の崩壊でした」と言いました。作業道の崩壊の仕組みを説明し、後半では「自伐型林業」の山の崩れなさを紹介しました。
報告の中では、今の一般的な林業と自伐型林業の比較も織り交ぜました。50年周期で伐採・再造林をする一般的な林業と、自伐型林業による間伐施業のスライドを見せ、「130年で6回間伐した山です」「150年経った山です」として、自伐型林業の「長伐期」「多間伐施業」を紹介しました。
杉本淳・災害調査チームチーフ
2020年末に結成した調査チームからの報告が続きました。調査チームは、毎年起きる災害の原因を客観的なデータで探り、住民の災害リスクを減らすために結成されました。
杉本さんからは、「本当に自然要因だけで起こっているのか。人為的原因は関係ないのか。ゼロから調べるのではなく、既存のデータを活用できないものか。衛星画像等を活用しながら、災害の現状を証明し、地域づくりに活かせるようにしたい。」と調査の目的が話されました。
具体的に今回の調査方法については、5つの項目の説明がありました。(写真参照)
災害現場では、土砂災害警戒区域と山地災害危険地区との重なりを紹介。「崩壊地と重なっているところもあれば、崩壊地なのに範囲外のところもあります」としました。
今後の展開としては、事例個数を増やし、何が土砂災害の要因になっているかをさらに検証することに触れました。そして、「「50年に一度」の災害にも耐えうる中山間地における暮らし方・地域づくりを展開するためにも、一つの指標を作りたい」とチームの目標が山村の安定した暮らしにあることを強調しました。
上垣喜寛・災害調査チーム責任者
(自伐型林業推進協会事務局長)
調査チームのまとめたデータは、無料アプリ「Google Earth」を用いて可視化できるようになりました。自伐型林業推進協会の上垣事務局長からは、調査チームで集めた情報を集約し、マップに配置してイメージ化できることを実際の画面に表示して紹介しました。特に球磨村と八代市の代表的な二地点を映しました。
崩壊地点の一つは、「山地災害危険地区」には重なっている場所がありました。しかし俯瞰してみると、すぐ隣の現場は同地区でカバーできておらず、これでは住民がリスク把握できず、いつ被害に遭うかわかりません。新しいハザードマップの必要性など訴えました。
一方で、自伐型林業の山は崩れてないケースが多く、「すぐ隣で崩壊してるのに、どうして(自伐の山は)崩壊していないのか。レーダーなどを使えば、見えてきます。自伐型林業データをつくっていきます」と続く調査内容を紹介しました。
最後に自治体に向けて、「簡易的な調査もできます。自治体や都道府県のみなさんに使ってもらえるようにしたい。ぜひホームページをチェックください」と呼びかけられました。
有識者1,鎌田磨人・徳島大学大学院教授
鎌田教授(徳島大学大学院)は冒頭、災害に強い森作りをしている徳島県の橋本林業のポスターを紹介しました。そこに記されたフレーズは「儲かる林業」。鎌田さんはそのテーマの脇に「豊かな森づくりにもつながります」というフレーズを加え、利益だけでなく環境保全型の森づくりをしてきた自伐林家の現場調査を報告しました。
鎌田さんが調査している橋本さんの林業地は、92科、252種の植物が生育し、10種類は徳島版のレッドリストに掲載されていました。生態系豊かな森という紹介の後、「大事な種も残しているいい山がつくられています。そこで、この森をどのように作られてきたのかを調べてきました」と鎌田教授は報告を始めました。
橋本さんの林業地は、年間3000mmの降雨量があり、急傾斜な地形が広がる地域にあります。常に心がけているのは何か──。鎌田教授が試みたのは、橋本さんの頭の中を分解する作業でした。「テキストマイニング」という手法で、インタビューをした後、発言した言葉を整理し、連動するフレーズをマッピングしていくものでした(下図参照)。地形や斜面の上下、方角などを意識していることが一目瞭然。「尾根」や「破砕帯」などの地形を意識し、風や雨をいかに防ぐか、リスクのある地形や木材生産に適した地形を吟味し、災害を未然に防ぐ心がけがをしていることわかりました。
そして、橋本さんが大事にしている2つの基本理念(哲学)である「一つの利益をつくるよりも、一つの障害を取り除くほうが大事(一利を興すより一害を取り除く)」と「できるだけ自然の状態を保つ(自然に学び、自然を活かす)」に触れながら、生態系やグリーンインフラの国際的な環境キーワードを紹介しました。
「橋本さんが森を見て、自然を見ているのは、気候変動のなかで自然を生かした解決策を示す「Nature-based Solurion」(国際自然保護協会)という考え方と重なります」「生態系を活用した防災・減災を表す「Eco-DRR」の原点は、こうした哲学のもとで森を見ながら育てていく視点につながっている。画一的ではないので、一個一個、地形を見ていくのが大事だとい事を橋本さんは教えてくれています」(鎌田教授)
有識者2,橋本淳司
「流域治水の現状と見落とされがちな森林の機能」
「流域」とは何か──。山に降った雨が支流を伝わり、本流に修練されていくのが「流域」です。このキーワードが注目されているのは、今年可決した「流域治水関連法(特定都市河川浸水被害対策法等の一部を改正する法律)」があります。
橋本さんは治水の考え方がかわったとして、この法律の改正前後を比較して、「改正前は治水は河川区域だけで、河川管理者にお任せでした。改正後は、流域全体で治水を行い、その担い手は河川流域に住む自治体、企業、住民が担うもの。林業者もその一つです」と説明しました。
流域治水は何ができるのか。橋本さんは、流域治水の分類を3つに分けた上で(下図参照)、スライドのようにハード対策とソフト対策に分けました。そして、宮城県丸森町と熊本県球磨川流域を調査フィールドに、流域治水の考え方を示しました。阿武隈川流域がいかに水が集まりやすい盆地の地形か、球磨川流域にある人吉盆地に水が集まり、崩れやすい地質であるかなどを紹介。そして、土と水がどこから来ているかとして、流域上流部の調査の模様を映像とともに伝えてくれました。
自治体が「流域治水」についてどのような計画が作られているか、森林整備との関わりがどれだけあるかなどを解説しました。そして、今の林業の「成長産業化」の潮流にも触れながら、「上流部の山で災害の火種をつくり、一方では下流で火消しに奔走しています。これからは森林の公益的機能を発揮させるための持続的な林業が必要です」「地域にあった森作りとその担い手育成が急務です」と結びました。
有識者3,田村隆雄・徳島大学大学院准教授
「気があると土砂流出・斜面崩壊はなぜ起こりにくいか?」と題し、「遮断蒸発」と樹冠について紹介がありました。
まずは雨の水が山の地表に落ち、洪水が発生する仕組みの共有がありました。今回のキーワードである遮断蒸発について、「森に落ちてきた雨が枝葉に落ち、細かいつぶつぶとして弾かれ、上昇気流を受けて微細化して上空に戻ること」と紹介。田村さんは自伐林家の橋本林業をフィールドに、「林外雨量計」と「樹冠通過雨量計」を設置し(下図参照)、遮断蒸発と樹冠の役割を数値化しました。
その結果、自伐型林業を実践する橋本林業地では、降水量のうち約24%が弾かれていることが証明されました。また、皆伐地でもそのデータを取っており、皆伐地は橋本林業地と比較して洪水のピーク流量が148%にも増加している(地表で受け止める水の量が約1.5倍になる)ことがわかり、「橋本さんの山は洪水を起こりにくくさせます」と示されました。
田村教授はさらに徳島だけでなく、全国の林地でも皆伐地の遮断蒸発の影響を比較し、最後は「洪水や土砂流出、斜面崩壊等の災害を防止・抑制するには、樹冠の遮断蒸発能を損なわない森林施業や林道・作業道づくりが求められる」とまとめました。(了)
※本フォーラムの資料集については、冊子版が以下より注文(有償)可能です。以下より、ぜひご注文ください。
https://zibatsu.jp/uncategorized/210915-forum-report
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