自伐型林業家紹介
株式会社大西林業「北の大地で、一本の木を見つめ続ける眼差し」(北海道白老町)
(写真:大西林業代表の大西潤二さん)
北海道は山林面積も広大で、都府県以上に大規模林業が推進されてきた地域だ。とくに広葉樹の場合「皆伐しても萌芽し天然更新する」という考え方から、50年スパンでの皆伐が一般的だ。そうして出てくる豊富な森林資源を求めて、製紙会社が進出してきた歴史がある。 そんな「大規模皆伐ありき」の北海道林業とは、正反対の発想に立つ自伐型林家がいる。白老町の(株)大西林業の代表取締役・大西潤二さんだ。大西さんは炭、薪、キノコのホダ木、木酢液、さらに炭を原料にした様々な加工品などなど、樹種や部位ごとの特性を生かして一本の木から無駄なく製品を生み出し、単位面積当たりの収益率が高い経営スタイルを作り上げてきた。(写真:高木あつ子/文:鴫谷幸彦)
一本丸ごと無駄なく使いきる広葉樹林業
小型ブルドーザが広葉樹林の中をミズナラの木を引っぱって来た。土場まで来るとチェンソーで手際よく玉切りしていく。まっすぐで細い部分は3尺(約90センチメートル)に切ってホダ木用に、ホダ木にならない太い部分や曲がった部分は5尺(約1.5メートル)に切って薪炭用にする。
(写真:伐倒したミズナラ2本を上下2つに切り分け、通称「20ブル」と呼ばれる中古の小型ブルドーザで引きずり出す。傾斜のない山林では作業道の敷設はしなくても間伐しながら搬出できる)
竹で作ったものさしは長さ3尺だが、2尺のところにしるしがつけてあり、これで3尺と5尺を計りながら、10分もしないうちに2本のミズナラが用途ごとに切り分けられた。伐期は10~3月末で、約25,000本のホダ木を生産している。 大西さんの試算では、たとえばミズナラを単純にパルプ用材として出荷してしまう場合と比べると、ホダ木に加工して売れば約4.5倍、薪なら約6.7倍、炭なら約8.5倍と、一本の木の価格はどんどん高まってくる。さらにこれらを組み合わせれば木を一本丸ごと使い切り、林地残材はほとんど出ないので、無駄は限りなくゼロに近くなる。
(写真:小枝を切り落とし、その後ブルで幹を引くと枝だけが落ちていく合理的な手法で造材していく)
大西林業が所有している山林は20ヘクタールしかない。あとは毎年、あちこちの山林(年間約10ヘクタール)で契約を結び、択伐または間伐した木の分だけ支払う「立木買い」を繰り返してきた。立木買いに対して立木を面積計算で買う「面積買い」がある。面積買いして皆伐したほうが効率はいいように思えるが、大西さんは立木買いにこだわる。「皆伐は面倒ですよ。必要ない木まで切ると選別に手間がかかります。山林の状態や樹種を見ながら択伐、除間伐していますね」。
(写真:北海道で通称「おいあげ」と呼ばれる林地残材も回収する。フレコン詰めで燃料などとして売れる)
大西さんが択伐にこだわる、もう一つの大きな理由がある。じつは近年、北海道では広葉樹の天然更新がうまくいかなくなってきたというのだ。原因は鹿だ。ハンターの減少等により急増したエゾシカが広葉樹の芽を食べてしまうため更新ができないという。さらに皆伐後、光の当たった笹が旺盛になり、再生をより困難にしているそうだ。もはや「広葉樹は再生する」という皆伐林業の根底が崩れてきている。だから大西さんは、鹿の被害が多い白老町の山林では皆伐はしていない。択伐で、鹿の被害を最小限に抑え、林地が再生不能になるほどの事態を回避している。 「正直、根本的な問題解決にはなっていないですよ。それでも皆伐したらその山は終わります。持続的じゃないですよ。『今あかんことをせん』。それだけですね」
(写真:過度な皆伐に、鹿の食害や笹の繁茂が加わり、更新がうまくいかない山林が目立つ)
「ホダ木が足りない」しいたけ農家の嘆き
大西林業の製品を販売する店舗「ならの木家」は白老町の町中にある。2007年にオープンしたこの店の面積は10坪(約33平米)と小さい。にもかかわらず、年間の売り上げは2,200万円。 その売り上げの9割がインターネット販売だ。近年のアウトドアブームや薪ストーブブームで、炭や薪の注文は年々増えているという。薪の売り先は道内がほとんどで、可能な距離なら配達も行っている。他にも木酢液や炭せっけん、炭スイーツなど、オリジナル商品も人気だ。 祖父の代に始めたというホダ木は、道内の原木しいたけ生産者2軒に運賃込みの1本200円で、そのほか福祉施設や一般消費者向けには1本400円くらいで販売している。原木しいたけ農家にとってホダ木の確保は生命線だ。
(写真:しいたけ生産者の下向さんのハウスに並んだホダ木)
豊浦町のしいたけ生産者、下向弘幸さんはこう語る「以前は北海道の農家も冬に山に入って木を切っていた。大事な副収入だったわけ。それが大農家ばかりになっちまって、片手間でホダ木を作ってくれる人がいなくなった。若い農家でチェンソー使える人はいないな。森林組合? ホダ木づくりなんかやらないよ。補助金の対象じゃないからね」。
(写真:原木しいたけ農家の下向弘幸さんと妻の美鈴さん)
(写真:原木栽培のしいたけは直売所で大人気だ)
一時は東北地方からホダ木を3,000本買ったこともあったが、運賃がかさみ1本300円にまで値上がりしたという。下向さんが願うように言った。「地元でホダ木を出してくれる人がいるってことが、大事なんだよ」。 大西さんは最近、地元の自伐型林家に下向さんを紹介した。自伐型林家にとって現金化が早いホダ木生産はメリットがある。ホダ木生産をより安定的なものにするために、自分以外の林家と農家を結びつけている。
突然の借地契約解消と経営を支えた薪生産
(写真:白老町のある胆振地域に並ぶ製紙工場。戦後は一次産業と製紙業で栄えた)
かつて北海道白老町は炭焼きが盛んだった。火山灰地で育った堅いミズナラを焼いて作るため火持ちのいい良質な炭として知られていたが、1960年代、石油や石炭に押され生産が途絶えた。それを1993年に復活させたのが大西さんのお父さんだ。約1000ヘクタールの山林を借り、かつての炭焼き職人に炭窯づくりから教えてもらい、炭焼きを始めた。そしてアウトドア需要や業務需要をとらえ、大西林業の基幹事業に育てあげた。 ところが一昨年、突然その山林の借地契約が切れた。山林の契約はそもそも口約束だったこともあり、山主の代替わりを機に切られてしまったのだ。大西さんはやむなく炭窯を壊した。 その後新たな山林を見つけて購入し、大西さんはゼロから新しい炭窯をつくり、昨年6月にようやく炭焼きを再開した。お父さんはすでに5年前に亡くなっていたが、大西さんにはお父さんと一緒に炭窯づくりをした経験があった。そして現在、2基目の炭窯づくりを進めている。
(写真:2016年6月に完成した炭窯。一度に1300kgの炭が焼ける大きさで、北海道では小さいほう。「まだ癖がつかめない」と煙の温度を入念にチェックしながら炭を焼く)
炭が焼けない間、会社の経営を支えたのは薪だった。薪の販売はその少し前から始めていた。炭生産が途絶えたことで、インターネットや配達で薪販売を拡大。おかげで一人の解雇もせずに乗り越えてきたという。今は大型の薪製造機も導入し生産量を増やしている。 最近は細かく樹種別に分ける薪販売に手ごたえを感じているそうだ。ナラ、イタヤカエデ、白樺、サクラ……、それぞれの特徴を伝えながら売るスタイルはまるで八百屋さんさながらだ。
(写真:地元の鉄工所に安く作ってもらった薪割り機。作業するのは後藤健男さん。定年後、山の木を無駄にしない大西さんに共感し手伝うようになった)
(写真:大西さんが「崩れないように積むのはセンスがいる」という薪積み作業。従業員の田中麻理衣さんはピカイチのセンスの持ち主)
補助金はなくてもやってこられたが…
驚くことに、大西林業はこれまで、補助金は一切もらわずに切り盛りしてきたそうだ。 なにかこだわりがあるのかと聞くと、「正直、あまりよく知らなかっただけ」とあっけらかん。今後は補助金も上手に使いながら経営を安定させたいと考えているとのこと。 「広葉樹施業の場合は、伐採以外の部分でもっと補助金があったらいいなと感じています。切れば切るほどお金が出る補助金ではなくて、たとえばうちのような経営スタイルでも、応援してくれるような補助金です。ちょこっとの応援でいいんです」
(写真:「環境保全型の広葉樹林業のモデルをここでつくっていきたい」と大地を踏みしめながら語る大西さん)
「林業の6次産業化」と評されることもある大西さんの経営だが、本人いわく「結構必死です」。補助金なしでやって来られたのは、大西さんが広葉樹の持っている商品力を引き出してきたからであることは間違いなさそうだが、山林の確保や獣害対策、売り先の確保など、不安定な要素が多いことも確かだ。補助金という応援が林業の発想を膨らませ、多様な経営スタイルを生む力になれば、もっと林業の魅力は広がるはずだ。
増える仲間たちと「北海道自伐型林業推進協議会」
実は大西さん、環境になじめず高校1年生で中退。夏の間ブラブラしたものの、ある日「このままじゃ腐る!」と一念発起。15歳で家業の林業に就いた。小学校3年生から手伝っていても「嫌いじゃなかった」という林業は性に合っていた。 「自伐型は自分のやりたいスタイルでできるでしょ。そこが面白いところ。もちろん一定のルールはあるし、継続と展開には努力は必要ですけれど」。 2016年末、大西さんら20名は「北海道自伐型林業推進協議会」を立ち上げた。福祉関係者や森林ボランティア、地域おこし協力隊など、多様な面々のネットワークが生まれた。
(写真:トドマツ林で仕事をする吉野さん)
「本来林業は多様なものだったはず。仕事も消費の側もいろんな選択肢のある時代、担い手も多様であるべきじゃないかと思います」。 大規模林業が盛んな北海道という地にありながら、1本の木を大事に見つめてきた大西さん。その眼差しに共感する人々の輪が広がりつつある。(写真:高木あつ子/文:鴫谷幸彦) ※写真の無断使用はお控え下さい。
フォトギャラリー
(写真:大西さんの山の現場)
(写真:木酢液を取るパイプは長いほど多く取れる。「当たり前」のことを確実に実践するのが大西流だ)
(写真:洞爺湖を望む高橋さんの山林現場)
(写真:商業施設のある白老町内の便利な立地にある「ならの木家」)
(写真:「ならの木家」スタッフのみなさん)
(写真:「ならの木家」の商品。ネットショップで人気がある)
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