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「国有林野管理経営法改正案」へ自伐型林業の大規模山林分散型導入の提案を発表
全国の国有林で最長50年間、伐採・販売権を民間業者に与える「国有林野管理経営法改正案」の審議が5月22日に参議院で始まりました。
同改正案の文言や仕組みを見ると、一部の大規模施業を行う企業、事業体、森林組合に「樹木採取権」を設定する想定であることがわかります。また、その林業施業は(50 年程度の)若齢林の皆伐(主伐)や過度な間伐を想定しており、表土流出や土砂災害といった環境への影響が出るのはあきらかです。
今回の法案の提出利用としては、「効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため」とありながら、皆伐と再造林のサイクルでは一時的な事業者の収益確保にしかならず、人材の育成は極めて困難です。
そこで、自伐型林業推進協会は、広大な森林を小規模に分散して管理する「大規模山林分散型の多間伐施業」のスタイルを提案し、発表しました。ぜひご覧いただければ幸いです。
「自伐型林業による大規模山林分散型の多間伐施業」
発表日付:2019年5月24日(金)
「国有林野管理経営法改正案」に関する「自伐型林業による大規模山林分散型の多間伐施業」の提案
特定非営利活動法人 自伐型林業推進協会
代表理事 中嶋 健造
「国有林野管理経営法改正案」において、国有林野を「一定の期間、安定的に樹木を採取(伐採)できる権利」を設定することが提案されている。その主体として、政府・林野庁は「森林経営管理法に定める意欲と能力のある林業経営者(森林組合、素材生産業者、自伐林家等)及び同等の者」を想定しており、森林所有者(自伐林家)および所有者とともに経営する地域住民からなる自伐型林業者がその管理を担う主体として含まれている。
しかし、同改正案の文言や仕組みを見ると、一部の大規模施業を行う企業、事業体、森林組合に樹木採取権を設定する想定であることがわかる。また、その林業施業は(50年程度の)若齢林の皆伐(主伐)や過度な間伐を想定しており、表土流出や土砂災害といった環境への影響は必至で持続不可能である。法案提出の理由に「効率的かつ安定的な林業経営の育成を図るため」とあるが、皆伐と再造林のサイクルでは一時的な収益確保にしかならず、人材の育成は極めて困難である。
当会は公的な森林を活用し、持続可能な森林を形成と人材育成が可能な形として、下記に提案を記す。「自伐林家等」が管理の担い手になった場合、どのような資源活用によって林業者の収入につながり、森林が伐採し尽くされることのない持続性を保ち、中山間地の暮らしに直結するのかの提案とする。
記
「自伐型林業による大規模山林分散型の多間伐施業」
前提条件を以下に設定し、国有林野において全国で展開されている自伐型林業の施業手法で行った場合、どのような森林が作られ、林業者が育つかをイメージした。
1,前提条件(民有林の放置林状態と同等を想定)
① 現在の人工林のボリュームゾーンである戦後に植林した拡大造林と同等の山林(平均50年生で、除伐及び切り捨て間伐が1回程度入った状態の人工林)。
② 本数は1200~1500本/ha前後。蓄積量は約350m3/ha。
③ 林道は入っているものの、作業道は敷設されていない。
2,施業手法のイメージ
① 2割以下間伐生産を繰返す多間伐施業を行う。
② 1,000haの場合だと、100ha単位に10分割(分散化)し、この100haに2~3人の自伐型林業者(地域住民等)を配置する。この単位が1森林経営単位(チーム)とする。合計で20~30人の地域就業を創出する。2,000haだとその2倍となる。
③ 1チームが経営する100haを10等分して、毎年10haの2割以下間伐を実施し、10年で1サイクルして1回目の間伐が終了。次の10年は2回目の間伐となり、これをその後も永久的に繰り返す。
④ 本数が前提条件の森林の場合、計算上は100年以上間伐生産を繰返すことができる。更新時期は風に耐えられなくなる本数(木と木の間隔が空いて風が林内に入る状況。200年生で100本/haが最終形:更新時期と考えている)になった林分が更新時期と考えるが、その際も一気に皆伐・再造林をするのではなく、間伐生産を主にしながら、数反単位に小面積更新を徐々に(数年かけて)実施する。
⑤ 作業道は基本的に最初の10年目に敷設する。尾根でヘアピンを切り上昇し、谷渡りは洗い越し(洗堰)、尾根から山腹にかけては林業作業を行う枝道を入れる。極力幹線と枝道をつなげて路網とする。2回目以降の間伐施業は敷設した作業道を使い続ける。幅は2.5m以下で、敷設するバックホーは3トンか3.5トンクラス。伐開幅は道幅の2.5mが基本で、作業道は連続して伐ることになるので風を林内に入れないようにするために、作業道上が樹木で閉じている状況を創り出す。
⑥ 使用する機械は、チェーンソー(伐倒・造材)、3トンクラスのバックホー(作業道敷設と搬出)と2トントラック(運搬)を基本とする。林内作業車を使う場合は1~3トンクラスまでとする。
3,予想される生産量
① 1ha当たりの蓄積量を350m3とした場合、1回目の間伐生産量(10年目まで)は1haあたり70m3 程度(2割間伐)となるため、1チーム毎年10ha間伐生産すると700m3/年となり、10チームが入る1,000haでは7,000m3/年、程度の生産量となる。
② 10年後の2回目の間伐時には蓄積量が増えて450~500m3になっており、同じ2割間伐でも生産量が増え、年間10,000m3程度の生産量になる。多間伐施業では10年毎に生産量が増えていくことになり、50年後の100年生のころには、蓄積量は1,000m3/ha、1,000haでの生産量15,000m3程度にまで増えているはずである。つまり「生産しながら在庫を増やす」「良木生産が可能になり単価も上がる」ことになり、十年毎に収入がアップすることになり、安定した持続的森林経営につながる。10年以降は、作業道はほぼ敷設完了しているため、材搬出中心の作業となり、コストは大幅に下げることができ、さらに森林経営は安定化する。
③ 多間伐施業イメージ(皆伐・主伐→再造林の林業サイクルとの比較)
190524_自伐協資料・国有林へ自伐型林業の大規模山林分散型導入の提案
4,提案手法で生まれる効果
① 地域就業・生業の創出(移住・定住促進に)
1森林経営単位である100haに2~3人の地域就業を、半永久的に持続的に創出できる。民有林での施業実績では、作業道敷設が終了した林分(2回目からの間伐)から補助金ゼロで完全自立した森林経営が可能となっている。
② 安定した持続的木材生産が可能に
全ての森林にて樹木がある状態を維持でき、全ての森林から持続的に木材生産が可能となる。
③ 高品質材生産とその市場創出
日本の森林の最大の特徴である、質の高い木材生産が安定的に持続させることが可能となる。世界的に見ても高品質材・高付加価値材を安定的に生産する国はほとんど存在していないため、この施業を続ければ日本は、世界の高品質材市場を独占できる可能性が出てくる。これこそが林業の成長産業化であり、50年伐期の林業では不可能。
④ 生態系豊かな環境保全型林業
30年以上多間伐施業を続けている自伐林家の人工林では、生態系的にも水文的にも豊かな森林になっていることが証明できており、環境的に良質な人工林づくりに直結する。
⑤ 豪雨に耐え、防災・減災に直結
豪雨が頻発する昨今、非皆伐の自伐林家の森(山肌や作業道上を覆う樹木により、直接の雨滴浸食を防ぎ、降雨の約3割を蒸発散カットする)と自伐林家が敷設する「壊れない作業道」が砂防や治水・治山効果を発揮し、災害を起こさないだけではなく、災害予防にも貢献していることが証明されてきた。先の西日本豪雨でも自伐林家たちの施業森林は全く災害が起こっていない。現行の大規模化した林業施業森林が災害を引き起こした事例が頻発しているのとでは、天地雲泥の差である。
⑥ 各チームが森林に面的に配置されるため、獣害対策になる。
⑦ SDGsを高レベルで実現する手法となる。
(自伐型林業推進協会が目指す環境保全型の森林|徳島県那賀町の橋本林業|撮影:自伐型林業推進協会)
【参考資料】
■ 国有林野の管理経営に関する法律等の一部を改正する法律案(参議院HPリンク・PDF)
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/gian/198/pdf/t0801980311980.pdf
■国有林法改正案 資源枯渇、憂える声 大規模伐採の候補地・宮崎 「生産性高まる」大手歓迎/再造林3割地域も(毎日新聞 2019.5.23)
https://mainichi.jp/articles/20190523/ddm/012/010/027000c
■国有林を伐採する権利が民間企業に。土砂災害が多発しないか(橋本淳司・水ジャーナリスト Yahoo!ニュース)
https://news.yahoo.co.jp/byline/hashimotojunji/20190515-00126067/
■国有林野管理経営法改正案を考える会
https://www.facebook.com/kokuyuurin2019/
■今国会で成立を目指す新たな「森林経営管理法案」に対する3つの提言を発表しました。(2018.2.4)
https://zibatsu.jp/wordpress/info/news/1802-teigen
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