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軽井沢フォーラム開催レポート「オフシーズンのスキー場で自伐型林業を」

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長野県軽井沢町で7月27日、「自伐型林業フォーラムin軽井沢」が開催されました。会場となった軽井沢プリンススキー場には、長野県内を中心に6都県から約50人が集まりました。

開会の挨拶に立ったのは、軽井沢町を拠点に活動する一般社団法人エンリッチアスレ代表の橋本通代さん。冒頭に橋本さんが紹介したのは、自身が林業と出会った時のエピソードでした。

「四万十川(高知県)でカヌーインストラクターをしている友人が、森に入って林業をしていました。そこで、『森は観光だけでなく、資源として活かせる“宝の山”だよ』と言われて衝撃を受け、すぐに中嶋さん(自伐型林業推進協会代表)に相談しました。あれから4年が経ち、今日ようやくフォーラム開催に至りました」。

(橋本通代さん)

シーズンオフのスキー場を活用。スポーツ選手のセカンドキャリアにつながる林業を。

橋本さんは、ソルトレイクオリンピックに日本代表として出場した経験を持つスノーボーダーで、大勢の観光客で賑わう冬のスキー場の景色と、夏の風景とのギャップを長年見てきました。

「全国には約500ヶ所のスキー場があり、その数は全世界で最多です。山の中にあるスキー場にも関わらず、周辺の森林を資源として活かす具体的なアクションは見かけません。オフシーズンを生かした活動ができれば、全国のスキー場にも広がる可能性があります」。

(会場には夏休み中の子どもたちの姿も)

橋本さんは、スポーツの競技選手たちの仕事の不安定さにも目を向けました。スポーツインストラクターは季節や天気に左右され、仕事の波があり、アスリートやOBOGが安定した仕事に就けない姿もまた見続けてきています。

橋本さんはウィンタースポーツと一年通して仕事ができる林業は親和性があると言い、「もし、軽井沢で私たちのようなスポーツ大好きなメンバーがスキー場を活用し、環境共生型の林業を続けられるような形が展開できれば大きなインパクトがあります」と準備してきた4年間の思いを語りました。

今回エンリッチアスレと共催したNPO法人「自伐型林業推進協会」は小規模林業を推進し、全国の林業者育成のサポートをしています。軽井沢と同じようなリゾート地で、広葉樹林を活用した事例も増えてきました。

橋本さんに続いて登壇した澤田健人さんはまさにその一人です。海外からの来訪者の多い北海道ニセコ町で林業をしています。


(登壇した澤田健人さん)

「ニセコ町は40年間、林業の歴史がほとんどなく、業者に森林管理をすべて丸投げしていました。だから未経験だった僕がやろうとすると、周りからは『林業なんてできるわけがない』と言われました。でも、始めてみた結果が今の僕の形です」。

スノーボードが大好きで同町に移り住んだ澤田さんは、もとは美容師の仕事をしていました。移住後に自伐型林業の存在を知り、道内の林業者からイチから技術を学び、林業グループを作り、現在は森林資源を活かした仕事(林業、エッセンシャルオイルや薪製造など)と美容業を組み合わせた暮らしを作ってきました。

(ニセコ町の澤田さんの現場)

さらに澤田さんは、小さな個人の活動が自治体・行政に伝わってきた状況に触れました。澤田さんの住むニセコ町は、環境に配慮した町づくりを目指しており、内閣府から「SDGs(持続可能な開発目標)未来都市」にも選ばれました。

「ニセコ町はSDGsを活発に推進していて、2050年には86%二酸化炭素を減らすと宣言しました。町内で環境に対するアクションとして(環境保全型の)自伐型林業があり、僕が始めた頃にはなかった支援が受けられるような動きになってきました」と、周囲の反応の変化を参加者に伝えました。

軽井沢の可能性

澤田さんは広葉樹の森で、木を切り原木のまま出荷するだけでなく、多様な樹種を利活用し、加工して販売もしています。

例えば、シラカバの皮の資源活用で、「一年に一回、皮がキレイにはがせる時があります。そのタイミングに山に入り、皮を取り、アクセサリーに加工して販売します」と紹介。さらにトドマツを煮出して抽出するエッセンシャル(アロマ)オイルも作っています。

(ニセコ町の現場)

また、地域エネルギーの供給として、ストーブ用の薪の生産もしています。原木(切って枝を払ったもの)と玉切り(30〜40cmの長さで切ったもの)、割り薪(ストーブにそのまま入れられるサイズのもの)の三種類に分けた生産で、価格差をつけて商品販売しています。それは、別荘に住む人たちの中には、薪を自分で割りたいというリクエストもあるためで、多様なニーズに合わせて工夫しています。「軽井沢はたくさん別荘があるから薪の需要があるはずです」と澤田さんは林業展開の可能性に触れました。

広葉樹の山といえば、景観の良さが伝えられる一方で、全国的にはその山の価値を生かせているとは言えません。林業の視点で見ると、広葉樹は(紙の原料になる)パルプ用か、バイオマス発電で燃やすための利用ばかりです。

(東北地方の広葉樹の伐採跡地)

自伐型林業推進協会の中嶋代表は、「広葉樹は質が良いにも関わらず、低質材として扱われ、林業現場はバッサバッサ右から左に伐採するような林業ばかり広がっています。全国で始まった森林環境税の割り振り方を見ても、広葉樹林は対象外で、山じゃない扱いをされていると言えます」と批判。その上で、家具用の活用に着目し、「ミズナラやクリは家具材として貴重です。建築用材として使われるA材(比較的形のいい木の部分)は、広葉樹なら家具材になります。クルミも良い」と言いました。


(中嶋健造代表)

家具といえば、その材料のほとんどを外国からの輸入材に依存しているのが現状です。家具の製造のためには、トラック1杯程度からの小ロットの木材調達で事足りてしまう場合が多く、大規模化した林業現場では少量の発注に対応してくれないというケースもあるようです。来場した国産家具メーカーの社員は、「多種多様な日本の広葉樹は貴重です。環境に配慮した自伐型林業者が切り出した広葉樹があれば、日本全国どこでも買い付けに行きたいぐらいです」と言いました。

後半のパネルディスカッションでは、白馬村を拠点に活動する「Protect Our Winters Japan(POW JAPAN)」 の高田 翔太郎さんが登場。林業を温暖化や気候変動の問題と絡め、「植物は二酸化炭素を吸収して育ちます。また、土壌は二酸化炭素も蓄積します。二酸化炭素の吸収源になる森をつくる持続可能な林業、自伐型林業は僕らも学んでいきたいです。軽井沢プリンスのスキー場でそれが始まるのはストーリー性があります」と期待を込めました。

会場からの質問には、小諸市で農業を営む清水博人さんも交えて応えていきました。農業との兼業スタイルや、セカンドキャリア、林業者の育成の方法など、さまざまな話題を取り上げて、自伐型林業の展開を軸に話しました。

軽井沢市では、これからエンリッチアスレのメンバーを中心に研修がスタートします。

同会代表の橋本さんは「自伐型林業推進協会が動いてくれて、プリンスホテルが山を提供してくれて、ようやく研修が実現できます。自分の山も使っていいよといってくださる人が町内にも出てきました。これからみなさんと頑張っていきたいです」と笑顔で会を締めました。

持続可能な環境共生型の林業が、軽井沢プリンスホテルスキー場の協力を得ながら、これから展開していきます。

(会場となった軽井沢プリンスホテルスキー場)

(フォーラム終了後には農家の清水さんからズッキーニ提供のサービスがありました)

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