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活動紹介2|天竜小さな林業春野研究組合

事業名

小規模持続型林業による地域の仕事創出事業

─地域の未来 山づくり、道づくり、人づくり─

コロナで影響を受けた人たち向けの研修を静岡県で主催するのは「天竜小さな林業春野研究組合」です。

日本唯一の林業専門番組「ZIBATSUニュース」(NPO法人自伐型林業推進協会)に代表の天野圭介さんがゲストに招かれました。そこで、春野町での取り組みを紹介しました。

浜松のこの動きは、新型コロナウイルス感染症の影響を受けた人たちを対象にした、自伐型林業による担い手育成を行う助成事業「失業者を救う自伐型林業参入支援事業〜アフターコロナの持続・自立した生業の創出〜」を活用した全国5地区の中の一つの事業になります。

自伐型林業の実践から

「永続可能な地域 春野モデル」の確立」へ!

春野町は人口4,200人ほどの地域です。森林面積は97%で、森林に囲まれた山間の町です。森林面積97%のうち、70%が人工林となっています。

私は、2歳のときに春野町にきて、中学卒業まで育ちました。その後、15年ほどは外に出て、今また春野町に戻ってきたという状況です。

ここ最近は、春野町でも大雨が降ることが多くなってきました。私が幼いときは、川でも遊ぶところがたくさんありました。川には、縁といって、川の流れが岩盤にぶつかって大きく蛇行する場所があるんですが、底が深くえぐれているので、うなぎが住んでいます。縁は、うなぎを摂ったり、上から飛び込んで遊ぶ場所でした。

しかし、こういう川遊びの場所がいまではなくなってきています。大雨によって、山から土砂がどんどん流されて、「まさかこんな雨で」と思うくらいの雨量でもすぐに川の水が濁ってしまうようになりました。人間の体でいえば、皮膚がえぐれて血が流れだしているようなことです。もう山が悲鳴をあげている状態です。泥が流れることによって、気田(けた)川という鮎釣りで有名な清流があるんですが、ここで育つ鮎は苔を食べているのですが、泥水が流れることによって餌となる苔も流されてしまう。鮎がいなくなり、どんどん漁業もダメになってくる。林業はというと、土壌が流失して、土が痩せていく。山も崩れ、さらに畑にも影響がでています。

(活動している春野地域の森林)

私は、耕作放棄地を3反(30アール)ほど貸していただき、農業をしています。田んぼへは、川の水を取水していますので、いったん泥水になると取水口を閉めてしまいます。すると田んぼに一番水がほしいときに水がこないという状況が生まれます。去年は、7月に長雨があり、記録的な日照不足で、やっと梅雨が開けたと思ったら、全く雨が降らない日照りのような状態が続きました。水が必要なときに水がこない、太陽が必要なときにない状態でした。では、伝統的は沢水はというと、それも使えない。昔は沢水が使えたのですが、山がお金にならなくなり、みんな山の手入れをしなくなり、今まで管理していた水源も意識がいかなくなり、沢水の水量もだんだん少なくなりました。山の管理が次十分だから沢水も、雨が降ったら、どーっと流れて雨がなければ枯れるという状況で、徐々に使えなくなっています。人間にとって重要な、食糧と水の供給というのが非常に不安定になってきています。

森林問題もそうで、今のうちに正しく切り、管理しないと、自分たちの子供の時代には悲惨なことになると思っています。私には3人子供がいます。そこで、智頭(鳥取県)や飯館(福島県)から春野町に移住してきた人たちと、「天竜小さな林業春野研究組合」というのを立ち上げて、自伐型林業推進協会や野村正夫先生(奈良県・作業道アドバイザー)にご指導していただきながら、自伐型林業を実践しております。

そこから見えることはたくさんあり、まさに日本の宝は、「家族農林漁業の」歴史だと思います。そこにあるのは、地域の多様性ですね。いま、山の中に幅2.5m以下の道を通す作業をしています。

(急傾斜地をのぼるヘアピンカーブ。代表の飯田康司(左)とともに)

春野ならではの自伐型林業の形

実際にユンボに乗って土を削っていくと、非常に硬い岩盤を削って道を付けるところもあれば、水が集まって緩い地形もある、過去に土砂が崩壊してたまり土になっているような場所もあるとわかります。「山」と一概にいっても、「山の中は多様だ」と土に触れると思います。

日本の今の人工林の状況を考えると、人工林で材木生産を中心に育てていく山、広葉樹に戻していく山など、多様な地形・風土にあわせて、いろいろなやり方があっていいのではないかと思います。

例えば、地が固くて雨が降っても流れないところや、土砂が流失しないところは、大規模に皆伐するのではなく、小規模の範囲で切って、天然林を作っていくやり方もあると思います。尾根筋や谷筋というのは、崩落を防ぐ意味や水の流れを安定させるという意味で、広葉樹や太い根などが必要だからです。

現在、主流の林業政策では、どの山も一緒くたに考えて同じ様なやり方を示していますが、日本でいま必要としているのは、その場その場にあったやり方です。頭で習った知識ではなくて、土を触って、山を削って、木を植えて……。実体験の中から得られる感覚を磨くことが大事です。自分が手を入れたことで、自然がどう反応するのか、どう付き合っていくのかを肌感覚で知る。こういうことができる人が増えないとならないです。まさに、今、こういう若者が増えつつあり、林業に携わろうとしています。この人たちの生業をサポートし、多様性を促していくような行政的サポートというのがあれば非常に心強いなと思っています。

 6人でチームを組んで自伐型林業をやっていますが、代表の飯田康司は、昔は福祉の仕事をやっていて、林業とは畑違いの仕事をしていました。私も、林業をやりながら広告・発行の仕事など副業しならやっています。もう一人は、チェーンソーアートのアーティスト。他には便利屋、学生、塗装屋もいます。旧来の農家林家の兼業とは違って、現代版の兼業・副業形態の人たちとチームを組んでいます。

専業となると利益を出さないといけないので、どうしても利益を追うために、たくさん木を切らないといけなくなってしまう。一方、副業のいいところは、自然のペースと人の都合を合わせたところで仕事ができる点です。今すぐ木をきらなくていいんだったら切らないで、その間は副業の方の稼ぎで生活していこうとできます。「じゃあ、来月は林業の方で稼ごう」という発想ができます。別の稼ぎを持っていることで、自然を搾取しない動きができます。団体としても、切りすぎ、過剰な間伐などにブレーキをかけることができます。これが従業員を雇って毎月定額の給料を払うような団体だったら、いやでも林業仕事をしないといけなくなります。でもそうではなくて、自分たちで林業・地域をなんとかしていかないといけないなとか、仕事としても林業に魅力と楽しさを感じつつ、自然から学び、ある種の修行に近いものが自伐型林業にはあるので、何事にも変えがたい充実感があり、それが精神面でも大きな支えになっています。

(使われなくなった施設を活用した作業小屋)

循環型の地域モデルを

「材価が安いということを解決している地域はありますか」という質問については、材価が低いと一般的にいわれていますが、まだまだ材価が高い山もあります。それは昔から枝打ちをして、丁寧に育ててきた杉やヒノキの山で、そういう家というのはちゃんとブランドがあり、天竜地域では、まだまだそうやって暮らしている林家もいます。だけど、私のように山ももっていません、地元で育っただけの人や、移住してきた人というのは、人の山で山仕事をしなくてはいけないし、いい木がある山にはまだ入らせてもらえないんです。自伐型林業というのは、いい木をなるべく切らず残して育たせる方法で、大きな道をいれないので山を痛めない、しかも多間伐という、少しずつ木を切っていくやり方なので、すぐお金にならないですよね。

ではどうやって暮らしていくのか。建材としてつかわえる様な質のよいA材は、お金になるんですが、B、C、D材などのものは、曲がり、虫がはいったもので、それは市場にもっていく搬出コストを考えると出しても赤字になります。そういう木をどうやって使っていくかが、今の課題です。

ただ、山は資源の宝庫だと思います。杉、ヒノキを使ってお風呂を沸かすことができます。濃い炎があがって、枝木であればちょっとの量でもボイラーに入れれば、1日1回のお風呂の熱源になりますし、皮だって使えます。山に道をいれるときに、障害となる下草のアセビ、サカキ、ヒサカキ、ソヨゴだとかをユンボで抜くのですが、これらを造園用の苗木として生産・販売したら、林産物として価値が生まれます。他にも、自分たちで製材も考えています。本来、山には普遍的な価値があるんです。それを「価値がない」、「使い道がない」というのは、人間の視点や生活が変わったからです。生かせるか生かせないかは、人間次第だと思います。だた、生活しなくてはいけないので、副業をうまく合わせながらやっています。

(「春野茶」「天竜茶」の産地でもあり、農業との副業の可能性も広がる地域)
(食、水、森林、エネルギー、教育・育児、医療、福祉を持続可能なコミュニティとして、真ん中に役場機能を新たに据える構想だ)

れからやろうとしていることは、「永続可能な地域 春野モデル」の確立です。

人間が生きていくために必要なことは、「食」「水」「エネルギー」の自給と、「森林生態系の回復」、「地球通貨」の5つです。「森林生態系の回復」は、今やっている自伐型林業です。それから、「地球通貨」は、通貨発行権を自分たちで握るというものです。5つの柱を掲げて、地域づくりに取り組んでいます。

「天竜小さな林業春野研究組合」として、森林生態系の回復に動き出している状況です。自然環境は、農林漁業と切り離すことができません。必ず、山でやったことは海、里に影響します。このつながりを、人が自然の実態のままに理解し、自然のつながりを損なわないように、社会、行政、暮らしから変えていけるかが問われていると思います。一歩踏み出さないと変わらないですし、踏み出すといろんな人やものや情報が集まってきます。

自然環境や生態系というのは、常に豊かになろうとしています。その力が、山に道をいれるとわかります。山が、ぶわーーーと蘇るんですよ。光が入って、風が通る、水が土に染みる。道をいれる前とあとでは完全に別世界になってしまいます。それくらい自然には回復力、豊になろうとする力があります。

10割の手をかけずに、2、3割程度の手をいれると、あとは自然環境が、人が与えてきた負の影響をプラスに変えていってくれます。現場で常々そう思います。私たちの地域づくりはまだ始まったばかりですが、一歩一歩、こういったモデルづくりのために進んでいきます。(放送日:2021年1月28日)

団体名:天竜小さな林業春野研究組合

ホームページ:https://www.facebook.com/天竜小さな林業春野研究組合-103863168238380/

 
 
Posted in 実行団体の活動

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